Live in Japan 2008 report

  1. ホーム

2008年東京公演レポート

“Far East Passion Tour 2008”と銘打った極東巡業2日目、2008年1月18日に東京の恵比寿 Liquidroom で行われた公演へ赴いた。ここは2004年に移転して以降、初めて来た会場。新宿歌舞伎町にあった頃は7階の会場までの階段に整理番号順に並ばされ、先頭が入場した順にのろのろと上がるという仕組みで、開演前からうんざりしたものだ。しかし恵比寿はロビーが用意されており、快適に入場を待つことが出来た。周りを眺めてみたけど、Angra のサポートを務めた前回と違って日本人がほとんどに見える。客層も広く、50代以上の人や小学生の姿もあった。

今回の物販は日本盤の作品全種と、Tシャツが“Far East Passion Tour 2008”の各会場をリストした背面と例の振り子を前面にあしらったもの。申し訳ないけど、今回はパスさせてもらう。でも会場には早速着替えている人もいた。

前売券が売れ残っていたようだが、当日券が売り切れたらしい。実際に入場し、ビールを飲み干してフロア中央に陣取ると、どんどん後から客が入って来る。そして「これから入場するお客様がいらっしゃいます。前方へお詰めください」と繰り返しアナウンス。どんだけ入れる気なのかと後ろが気になって仕方がなかった。そして開演前諸注意の案内で「本日のナイトウォッシュ公演……」、会場内に笑いが。「デーモン小暮却下」はビデオとして残ったが、「ナイトウォッシュ」は後々まで語り草となるのかもしれない。前回の東京公演はローカルであるもののテレビ放送されたが、残念ながら今回はテレビ・カメラが見あたらない。

開演時刻が近づき、歪んだベース・ギターの音が会場に響く。Marco を呼ぶ声が上がり、徐々に客は熱を帯びてくる。定刻より少し遅れてメンバーが舞台に現れ、1曲目“Bye Bye Beautiful”が始まった! Anette は笑顔で登場、髪はお下げで、黒いフリルの付いたベアバックのドレス。彼女も前任シンガー Tarja と同じく嬉しそうに笑う。そんな Tarja との別れを歌ったこの曲で観客は大合唱だ。続く“Cadence Of Her Last Breath”では“Runway, runaway...”と Marco に合わせてみんなが歌う。前曲もそうだけど、こういうシンプルでキャッチーな歌をみんなで歌うことで、会場はすぐに一体になる感じがする。そしてブレイクのヘヴィなリフに沸く……会場はメタラーが多そう? いい流れになったところで Anette が MC、「ありがとう!」そして中学1年生の時に習ったような簡単な英語で挨拶をしてくれた新しい Nightwish を、観客が温かく迎える。

ここでいよいよ Anette が初めて過去の曲を歌う。前ツアーのオープニング曲、“Dark Chest Of Wonders”。この曲を始め、数曲のライブ版がオフィシャル・ビデオとして公開されていたので、どう歌いこなしているのかチェック済みの人もいたと思う。またこの曲が収録されていた“Once”がよく浸透していたのか、序盤からいきなり大きく盛り上がる。拳は上がり、“Oi! Oi!”と声が上がる。Anette はアルバムでも聴けるように明るく通る歌声で、子供心と夢や冒険というこの歌のテーマによく合っていた。Tarja のような技巧的なものはなくなったとはいえ、この歌の魅力を別の形で提示していたと思う。続く“Ever Dream”もそう。この歌を吹き込んだデモが Nightwish 加入への足掛かりとなったことを考えても、違う思い入れが歌に入るかも知れない。Tuomas はイントロ後のブレイクで目頭を両手で押さえる姿がビデオ“End Of An Era”に残されている。そんな二人が顔を向かい合わせてイントロを演奏する。終盤のコーラスでは原曲とは別の旋律で紡いでいき、4分少々という時間でありながら最後までドラマティックに歌い上げた。

Emppu が初めて一人で作曲してアルバムに収録した曲“Whoever Brings The Night”。Marco と二人で舞台前方で肩を寄せ合ってリフを奏でる。威圧感のある Marco と妖精のような Emppu が並ぶと、何だか親子のように見えて楽しい。複雑な譜面割りのバッキングとポップな歌のメロディから一転、テンポを上げてギター・ソロになると一気にボルテージが上がる。そんな彼の見せ場がある曲に続き、ギターが暇だと語っていた“Amaranth”。シングルにもなってビデオも制作されたこの曲は、客席が気持ちよくうねり、コーラスでは大合唱、多くの人に受け入れられているっぽい。間奏部のリフは原曲よりも引き延ばし、Anette が扇動する。今までの Nightwish では見られなかった演出だ。

舞台が暗転、風と波の音が聞こえ始める。ストゥールが用意され、アコースティック・ギターを抱えた Marco と Emppu が腰を降ろす。Marco が手にしているのもベースではなくギター。Tuomas のピアノと一緒に Marco が物語を歌い、ティアラをつけた Anette も腰を掛けてハーモニーを加える。エンディングは映画『ピアノ・レッスン』“The Piano”から Michael Nyman 作曲の『楽しみを希う心』“The Heart Asks Pleasure First”を Tuomas が引用し、クール・ダウンした会場に向けて Marco がネックをかざし最後のコードをかき鳴らすと、歓声が湧いた。

Marco が感謝の気持ちを繰り返し述べた後、次の曲は Tuomas Holopainen の歌であると告げる。“The Poet And The Pendulum”だ。“White Lands of Empathica”が始まり、少年の独白がフロアに響く。オーケストラとバンドが起こす爆発のような“Home”では観客が大きな反応を示し、“Oi! Oi!”と唱和する。もちろん Anette と Marco がデュエットするコーラスでも一緒に歌う。主人公の Tuomas はもちろん、バンド全員が曲に没頭して激しく演奏した。“The Pacific”はチェロの旋律で始まり、床を見つめていた Anette が顔を上げてしっとりと歌い始める。アルバムではボーイズ・ソプラノが歌っていた場面だ。続く“Dark Passion Play”ではバイオリンのパートを Tuomas がシンセ・ストリングでプレイする。テンポが上がるとみんな喜ぶようだ。Marco が怒りの声をぶつけ、Anette が憤りの声を上げ、再び“Home”のコーラスを歌って観客はこれを唱和する。そして最後、ナレーションが被さり、「助けて」という声と共に刃が落ちた。Tuomas は自ら斬首のジェスチャーをし、曲が途切れる。このクライマックスに観客は大きな歓声を上げた。最後にまた曲に戻り、“Mother & Father”が始まる。子の立場から親の気持ちを書き綴ったこの歌を、息子を持つ Anette はどんな気持ちで歌うのだろうかとか考えながら聴いていた。原曲と異なる低い音域で語りかけるように歌い始め、後半は原曲通りのメロディで歌い上げる。今ツアーのハイライトというべきこの曲をバンドはひたすら演奏に打ち込み、観客は大いに沸いた。緊迫感のある演奏が与えてくれた劇的な感動の15分間に、多分な拍手が送られた。ただ Emppu はいつも通りマイ・ペースだったけど。

続いて演奏されたのは“Sacrament Of Wilderness”。原曲のキーボード・ソロに代わって途中で“Moondance”を思い起こさせるロシア民謡調の曲が挟まれる。過去に“The Pharaoh Sails To Orion”で同じく民謡をベースにした“Moondance”を挟み込んだアレンジを披露したことがあるが、ちょうどあのような感じだ。

ここで Anette が MC 。何故か外国人が印象深く感じることが多いらしい日本語の「はい」をコール&レスポンス。「日本語をちょっと勉強してきたから」と言いつつ「はいはいはいっ。」いや、それは何だか日本語と違うから。すっかりリラックスし、場面はロシアから離れて遙か砂漠と太陽の“Sahara”へ。序盤にギターでメロディを奏でるところで Marco が Emppu をいじる。前作収録曲の“The Siren”にも似た中近東風のエキゾチックな曲調はアルバムだけでなくライブでも良いアクセントとなり、ハイライトの一つになった。個人的に Jukka のシンバルに注目しつつ、大きく抑揚するリズムに気持ちが高揚する。

Marco が MC。そろそろ終わりが近づいていることを告げると、客席からブーイング。彼はそれが本意か確認した。“No?”。みんな“No!”と返す。何を言ってるのか分からないままにとにかく「いえー」とか言ってる人は少なくない。それが日本人の日本語の MC でもとりあえず「いえー」。それはともかく、“Definitely not?”としつこく聞き返してきて“No!”と答える観客からも笑いが起きる。ロック・ミュージシャンが何故ステージに立つのか、それは歓声を浴びるためだと言って声を上げるように繰り返し促す。観客の大きな声に満足した彼は、次の曲でショーは終わるけどひょっとしたらまだ続けられるかも、と言い、作曲者である Tuomas のピアノを導く。前ツアーと同様、本編最後の曲は“Nemo”。序盤でギターがないパートでは Emppu がベース・ギターをピッキング。Marco の右腕に抱えられるように懐に入ると眉をひそめて鼻をつまみ、Tuomas の方を向いて「あいつのワキが臭すぎるんだけど」とでも言うように Marco を指差して笑ってる。Emppu の悪戯の対象は Marco になってるようだ。これも“Sacrament...”と同じく Anette は大きく印象を変えることなしに持ち前の歌声を生かして歌いきった。

公演本編が終わって舞台からメンバーが消える。観客は拍手と Nightwish コールを繰り返した。するとドラムスがリズムを打ち始める。“7 Days To The Wolves”だ。衝動を圧し殺したようなヘヴィなテンポで曲が続く。リズムが変わってテンポは激しく。ここでもバイオリンは Tuomas のシンセ・ストリングスに。Anette のハイ・トーンも高らかに響き、エンディングは大団円とも言うべき劇的さ。

続いて新しく録音されたオーケストラと合唱に導かれて“Wishmaster”が幕開け。しかしコーラスではそんなの関係なく客が合唱、人気曲に会場は一体となって盛り上がる。Marco 加入後にギターのチューニングを変えられたこともあり、この曲もキーを下げて演奏。声楽を生かしたメロディは Anette の声に合わせて上手く変えられていた。

ここで Marco がウォッカを取り出す。前回同様に「フィンランドのウォッカじゃなくてスウェーデンのウォッカなんだよな……」などと喋り出すが、これは Marco の鉄板ネタなんだろうか。フィンランドのウォッカを飲めばいいのに、という観客に対して今度は Anette が「スウェーデンのウォッカのどこが悪い!?」と口を挟んでくる。何だこの漫才。そんなジョークにみんな笑ったが、次は日本産ウォッカを飲むといいと思う。

ここで人気曲“Wish I Had An Angel”が始まる。会場が一つになってキャッチーなコーラスを合唱。ここでも Anette はブリッジを大きくアレンジして自分の歌声をアピールしていた。

この日の全ての曲目を終えたバンドは舞台上で挨拶したのち、下に降りて客とコミュニケーションを取る。前回は2列目あたりで見てたけど、今回のような演出はなかった。とりあえずフロア中央からは何も見えないけど、前方の人は楽しんだみたいで良かった。

  1. Bye Bye Beautiful
  2. Cadence Of Her Last Breath
  3. Dark Chest Of Wonders
  4. Ever Dream
  5. Whoever Brings The Night
  6. Amaranth
  7. The Islander
  8. The Poet And The Pendulum
  9. Sacrament Of Wilderness
  10. Sahara
  11. Nemo
  12. (encore) 7 Days To The Wolves
  13. Wishmaster
  14. Wish I Had An Angel

全曲目を終了してメンバーはステージから去るが、客はバンドに対して“Nightwish! Nightwish!”と呼びかけ、拍手が鳴りやまない。しかしやがて客電が点き、公演終了の案内が放送された。

ツアーが始まった頃は歌うことに専念していた Anette も徐々に余裕が生まれてきているようで、舞台を動き、跳ね、観客を扇動していた。Tuomas はやはりあの目力で客席を狙撃しまくりながら頭を振りまくって鍵盤を叩く。舞台上手の Emppu はいつものように笑顔で弾き、腰を落として弾き、頭を振って弾き、下手の Marco と場所を共有する。メンバーを呼ぶ歓声は Marco の人気振りを伺わせるもので、その存在感といい強靱な低音といい、もちろんあの歌声を存分に聴かせてくれて、Nightwish のステージになくてはならないポジションにいることは間違いない。Jukka もスティックをトワリングしながら曲の基盤を支えながら感情を与えていく素晴らしいドラミング。現在の Nightwish を演奏面で際立たせているのはやはり Marco と Jukka であることがライブでも実感できた。Anette Olzon という素晴らしいシンガーを得て大いに波に乗ってる Nightwish がまた来日公演をしてくれるようにまた祈るのであった。