Studio 6 : The Abbey Road Studios - Kimmo

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スタジオ 6:2007年2月21~23日、Abbey Road Studios /Kimmo

1日目 2007年2月21日 午前5時45分起床

外は……華氏29度(摂氏 -1.7℃)。最悪だ。エンジンにブロック・ヒーターが付いていないボロ自動車の LT は始動するのだろうか。いや実際は付いているのだが、例によってちょうど凍るような季節が始まった3週間前にメインテナンスに出してたばかりで、……そう、昨年の春には既に不調だったことは分かっていたんだ。幸いエンジンが掛かり、ヘルシンキ行きの列車に乗るため車を駅へ走らせ、Seutula にて飛行機の出発を待つ。「スターたち」は私とは別の便で飛び立ったが、これは完全に失敗だった。私が予約した便はあまりにも遅いのだ。みんなロンドンへ直行したのに、私はオスロ経由。出発はほぼ同時刻の午後2時なのに、到着は2時間遅れ。今はただ何が起こるのか考えを巡らせるばかり……あの伝説のスタジオで何が起こるのか!? いや待って、考え直して。このわずかな日数に予想できる可能性の全てを確認すると、あからさまな厄介者になるしかないようだ。

午後6時、いよいよロンドンへ。

……よし、いよいよだ。フライトは遅れが出て、ヒースローは満杯。オスロの出発から45分遅れが出て、どんどん遅れてしまった。ロンドンの上空をグルグルと30分も着陸を待っていて……いや、もっとだ。ようやく着陸したと思ったら、期待をターミナルに着けるための場所を確保するまで45分も座らされたままだった。

ロンドン地下鉄の素晴らしいネットワークのおかげで空港からホテルへの移動は快適だった。ちょっと乗り換えただけで、あと300メートルでホテルだ。時間は既に午後8時を回っていたので、スタジオを訪れるのはやめた。マテリアルの運搬だけだろうし、そんなものはどうでもいいのだ。明日の午前9時30分、正式なセッションが始まり、私はそれを見て学ぶのだ。

2日目 2007年2月22日 午前7時30分起床

凍えちゃう! 外じゃない、屋内だ。高さ2メートルの窓から大量の冷気が入ってくる。ああもう、この四つ星ホテルにはフィンランドの優秀な大工が必要だね!(イギリス人はホテルに対する彼ら独自の分類の仕方があるみたい。だってフィンランドならこれはホステル扱いになると思うから)手早く朝食を済ませてロンドンの新しい地図を買いに行く。昨日買った地図はロンドンの中心部しか載ってなくて、アビー・ロードが入っていなかった。さっと確認してスタジオへの道を発見。でも Ewo に電話したら、彼のホテルのコーヒーに誘われた。30分ほど地下鉄に乗って彼らが泊まっているホテル Danubis へ。そこから10分歩けばアビー・ロードだ。伝説の横断歩道へ、そして周りを見渡す――スタジオはどこ? どのビルも同じに見える。 キョロキョロと辺りを見て、どうにか目的地を見つける。外からビルを見るとちっぽけだけど、いったん中に入ればそれが誤りだったことに気付かされる。そこは地上2階、地下1階。プレイすることになる大規模な Studio1 もここにあり、レコーディングが今夜までと明日にかけて行われる。

私たちが到着したときにはほぼ準備が完了していた。マイクが設置され、大量のイヤフォンっぽいのがオーケストラのために用意された(66人の団員全員がヘッドセットを装着するのに、棚にはその後も大量に残ったままだった)。怪物級のミキサー Neve88RS がコントロール・ルームを占領し、リスニングは B&W 製の機械で。フロント・スピーカー×3+サブウーファー+リア・スピーカー×5だ!

現在スタジオにいる人
  • 編曲者 Pip Williams
  • 指揮者 James Shearman
  • レコーディング・エンジニア Haydn Bendall
  • Protools オペレータ Richard
  • 2人のアシスタント(フィンランドでもこれくらい出来ればな)
  • Mikko Karmila, Jukka, Tuomas, Ewo, Toni
オーケストラの本日の予定
  • 午前10時から午後2時:総勢66名
  • 午後3時から午後6時:総勢51名

ここに集った才能の全てにめちゃくちゃ深い感銘を受け、それはもう恐ろしくなるほどで、ファースト・テイクからエラいことになった。オーケストラが譜面を受け取ったのはつい先ほどで、リハーサルなど全くしてないとは想像も出来ない。とはいえ、彼らの過去の業績を思えば不思議はない。この指揮者はロンドン交響楽団を……いや、こう言おう、映画“Harry Potter”『ハリー・ポッター』を監督している。エンジニアの Haydn はJames Cameron(ジェームズ・キャメロン)の映画で仕事をしている。田舎から出てきた子どもは、これからどうするのかなんて周りの人に話さないほうが良いのではと思った。ただ一人ちぢこまった迷惑は、確かに素晴らしかったけれども――コントロール・ルームで聴けるサウンドがラウドだったこと! Pip は「B&W のスピーカーはクラシック音楽には最高なんだ。トレブルは入れ替えたけどね。」と語っていた。なるほど。

オーケストレーションの後も「伝統の」非凡な楽器が待っている。ティンパニーであるとか、列車の線路だとか、アパートの区画だとか。後者2つは、この世の終わりの眩いばかりのサウンドを伝達してきた。Tuomas は過去最高のサウンドだとコメントしている。ティンパニー奏者は彼のパートを終えるとすごすごとレコーディング・ルームに入ってきて、譜面をくれるように頼んでいた。彼は今まで最高の難しさであることを付け加えながら、自身が音楽教師でもあることを口にした。生徒が腕に自信を持ち始めたら、この譜面を突きつけるつもりらしい。そして彼らの顔から笑みが消えた。リスニング・セッションも中盤に入ると、少なくともコーヒー2杯は飲み終わっていて、アシスタントは運び入れ続けていたが、器一杯のブドウはなくなってしまっていた。

午後7時から10時は33人の合唱。

合唱隊が1曲目を歌い始めると、この曲のリハーサルどころか聴いたこともないと言うことを知って驚いた。歌手にとって簡単すぎる曲と言うことはなく、それは1時間半に渡って続いた。特に変わったことも起こらないため少し退屈になってきた。彼らはプロだ!

3日目 2月23日 アビー・ロード・スタジオ

午前11時に到着し、オーケストラのラスト・テイクに間に合う。ここでもプロフェッショナリズムを見せてくれて、2時間以上掛ける予定だったのに早めに終わってしまった。合唱隊は早くとも午後2時にスタジオ入りするため、待っていなければならなかった。何も急ぐことはないのだ。ようやく歌手たちが到着するが、とある伝説的スポーツ番組のキャスターの言葉“It is done!”を引用するだけだ。彼らのレベルの高さに驚嘆するばかり。

午後7時、ちょっと趣の違う楽器の登場。ハンガリー生まれのハープシコードだ。蓋と鍵盤を取り外したグランド・ピアノを思い出させる楽器で、2本のスティックで弦を叩いて演奏する。この楽器を知っているのは、ロンドンではこの人しかいないのだ。とは言ってもひどい演奏をしたりすることはなく、それどころかとても素晴らしいものだった。ロンドンでこの楽器を弾くキャリアを築くのは、この人が居続ける限り意味がなさそうだ。

(訳注:ハープシコードは鍵盤が付いていて、打鍵すると爪が弦を引っ掻いて発音する仕組みになっています)

最後に

残念ながら土曜の朝早くにフィンランドへ発たなければならなかったので、Studio2 で行われたゴスペル・クワイアの録音は見ることができなかった。まさに同じスタジオで The Beatles のようなバンドが録音をしてきた場所だ! あとから見せてもらったり聴かせてもらったりしたことがいっぱいあった。みんな写真をたくさん撮っていたと思う。

このセッションが始まるまで私は疑念を抱いていた。つまりわざわざイギリスまで赴いてオーケストラや合唱を録音することについてだ。しかしもう疑うことはない。その品質の高さ、仕事の速さ、我々は本業である音楽というコンテンツの制作に集中することが出来るのだ。Studio1のサウンドも素晴らしい結果を残すことが出来た。これがフィンランドだったらオペラハウスか何かを借りねばならないし、それは大変すぎる。後はひたすらアルバムの完成を待つだけだ!