Dark Passion Play listening session (Imperiumi)

  1. ホーム
  2. 記事
  3. “Dark Passion Play”特集

“Dark Passion Play” リスニング・セッション (Imperiumi)

by Kari Helenius

私たちは今、間もなく Nightwish が発表するニュー・アルバムのリスニング・セッションの会場である Finnvox Studios に到着する。頭の中に色々な期待がよぎる。アルバムは前作よりもハードに、ダークになっているのだろうか? オーケストラのサウンドはどのようにビッグなサウンドとなったのだろうか? Anette は上手くやり遂げたのだろうか? バンドがどのようなシンガーを加入させるべきなのかを熟考し、そうした要求に Anette が完璧に応えたと言うことはもう分かり切っていることだ。今回アルバムを試聴する前にインターネットでサンプルを聴いてある。しかしそんなちっぽけな 128k の MP3 で内容の推測などしたくはなかった。

個人的に Nightwish はどのアルバムにおいてもその前作を超える作品を出し続けてきたと思うし、彼らが何をしようとしているのかをすぐ聞き取ることが出来た。多彩な技巧を現実のものする技量とバンドのメンバー個々が持つ技能はいつも前進しており、一所に留まることを知らず、ましてや後退することなどありえなかった。バンドはその殻を打ち破って成長し、今やフィニッシュ・メタル界で最も輝けるスターとなった。

Listening Session

スタジオにはマスメディアの人間が20人ほどおり、他にレコード会社のスタッフもいる。バンドも Jukka 以外が来ており、Tuomas はジャーナリストたちがどう反応するのか、ナーバスになっているようだ。アルバムのタイトルは Dark Passion Play、全13曲75分だ。アルバムの詳細に立ち入る前に、1回しか曲を聴いていないということを言っておきたい。間違いがあるかも知れないから。

アルバムは14分を超えるマンモス級の楽曲“The Poet And The Pendulum”で幕を開ける。イントロはサウンドトラックのように始まり、すぐにボーイ・ソプラノが聞こえてくる。そしてバンド・サウンドの全霊が爆発して曲に入ってくる。速く、ハードに、少し Pantera 風でもある。コーラスでは“Get away, run away, fly away……”という歌詞が聞こえてくる。その後オーケストラがメインとなり、再びヴァースへ戻る。2回目のコーラスが終わるとチェロが登場し、より平穏なパッセージが流れてくる。ボーイ・ソプラノは“Tuck me in beneath the blue……”と歌う。そして Anette が少年とデュエットする。朧気なオーケストラの合間に少年は何かを言っているようだ。オーケストラはその力を増し、歌は翼を得て空を羽ばたくようだ。Emppu はソロのような旋律を奏で、Marco のその唸りは強烈な痛打となる。そして曲は一つのパートを除いていったん止まる。戦闘兵器は音を潜め、静寂に覆われる。穏やかなフルート、美しい歌声。それを支えるピアノ。この部分は“Ghost Love Score”を思い起こさせる。愛の告白。それは誰? そして誰に対して? これは始まりなの、それとも終わりなの? この歌は多くのパートで成り立っていて、1回聴いただけで真実にたどり着くことはできない。もう1度聴けばまた別のことを述べることが出来るだろう。

考えがまとまらないうちに次の曲が炸裂する。“Wish I Had An Angel”を思い出す。Marco が歌うこの曲は“Bye Bye Beautiful”という紛らわしいタイトルが付いている。美しいバラードではない。剥き出しで巨大な固まりのようなギターは時に Megadeth を思い出す。それは「さよなら」なのか「失せろ」なのか……。

“Amaranth”はピアノ三重奏で始まり、バンドとオーケストラの全力の演奏が入ってくる。Anette がコーラスを歌う部分は、このアルバムで初めて全身の毛が逆立ったように感じた。そしてヴァース、コーラス。しばらくして穏やかなピアノのパートがあり、再び全力のコーラスが入ってくる。

“Cadence Of Her Last Breath”は始めから完全燃焼している。オーケストラは響き渡り、Anette は高い声で歌い始める。今までにない曲で、1回聴いた段階では他に類する曲を思い出せなかった。コーラスは非常に早く聞こえる。

“Master Passion Greed”は相当ハードだ。イントロだけなら Tarot のようだ。スラッシュのような始まり方は、Nightwish 最高の速さを持つ曲になっている。Marco は怒りを撒き散らすように歌い、コーラスに入るとテンポはスローになり、オーケストラが入って「目に飛び込んで」くる。終盤になると Marco は悲しみと怒りを吐く。ラストはとてもがっちりとしたアグレッシブなものになる。これは誰のために捧げられるのか?

次は“Eva”。美しく、たおやか曲で、ピアノとオーボエから始まる。Anette は澄んだ声で歌い、曲はゆっくりと進んでいく。2回目のヴァースで静かにドラムスが入ってくる。2回目のコーラスが終わり、このアルバムで初めてのギター・ソロが始まり、静かになったオーケストラは最後のコーラスで再び曲に参加する。

次の曲はキーボードで始まり、すぐにオーケストラが入ってくる。続いて Emppu が弾くギターのメロディが続く。この曲は重いテンポで構成されていて、Anette はその声を多彩なバリエーションで歌う余地がある。この千夜一夜物語は“Sahara”と名付けられ、最後までアラブ風のメロディを堪能することが出来る。“The Siren”のような位置づけ?

次の曲の始まりはヘヴィだ。まさに本当のホラー映画のような雰囲気で、これは“Whoever Brings The Night”という題名にも表れている。歌声は何かのフィルター(フランジャーを通したようなサウンド)で処理されている。この歌は奇妙かつわずかに恐怖を覚えるサウンドに支配されている。それでいながら非常に Nightwish らしいサウンドになっていて、テンポも速い。ギターが主導権を握る構成。なるほど、後で Emppu の書いた曲だと聞かされた。

Listening Session

え、何だこれは。The 69 Eyes の曲? 違う違う。確かにこの始まり方には驚いた。“For The Heart I Once Had”はアルバム中で最もポップなボーカル・パートで、そこにドラムスとベースが伴奏する。特に「猫の鳴き声」のようなヴァースが面白い。コーラスは再びエネルギッシュになり、歌は空を舞い始める。Emppu の短いリード・ギターを挟んで再びヴァース。コーラス部は本当にデカい。しばらくして落ち着き、ピアノと Anette とオーケストラが入る。これは Dead Boy、あるいは幼年時代についての歌か。そしてまたコーラスに戻り、バンドとオーケストラは共に全身全霊でプレイする。

次の曲の始まり方はやはり Creek Mary's Blood を思い出させる。 アコースティック・ギターと低音のアコースティック・ドラム。Marco が、不思議で、少し民族っぽいメロディを優しく歌う。Anette はバックグラウンドだ。この歌はアイルランドのフォーク・ソングのようだ。そもそも名前が“The Islander”である。そこにヴァイオリンが入ってきて、歌はデュエットになる。“This is for long forgotten light at the end of the world……”Marco の非常に美しい曲は海の音とともに終わる。

この音が流れるまま混乱させるように次の美しい曲が始まり、しばらくしてこれがインストゥルメンタルであることに気付いた。美しい曲だ。スコットランドのような雰囲気と逞しいケルトのテーマが同居している。この“Last Of The Wilds”は終わりへと近づき、フィンランドのカンテレによる厳粛な音色で結ばれる。

次の曲は再びヘヴィな幕開けで、バックグラウンドには大きな合唱が続く。Emppu が攻撃的なギターを爪弾き、Anette はトップで歌う。コーラスには Marco が入り込んできて、Anette はバッググラウンドを歌う。ヴァースへ戻ると、少し待たされるような感じがある。再びコーラス、壮大で、美しい。2回目のコーラスからストレートに Emppu のソロが始まる。Anette が歌へ戻るとバックはドラムスとオーケストラだけで、ここでは風がそよぐのを感じる。そしてオーケストラの音が増幅し、ケルティックなヴァイオリンと Anette のゴージャスな歌声が重なる。“Howl! Seven days to the wolves!”コーラスはまさに圧巻。このアルバムで一番の歌だ!

最後の曲はチェロで始まる。“Meadows Of Heaven”だ。すぐさまピアノとヴァイオリンが入ってくる。Anette が安らかで綺麗なメロディを歌い始める。コーラスはもっとパワーがあり、ヴァースではまた穏やかになる。バグパイプか何かのようなものがフルートと一緒に続く。ドラムスが入ってきてすぐにオーケストラと Anette と大きな合唱もそれを追う。Emppu は力強いギター・ソロで攻撃を仕掛ける。ソロが終わると再び落ち着きを取り戻し、ピアノとヴァイオリンだけを伴奏に Anette が歌う。オーケストラは再びコーラスに加わってくる。歌の終盤はゴスペル・クワイアと女性ソウル・シンガーの歌声がフィーチャーされて総毛立つ。何とも堂々たる歌だ。肉体的にも強烈な体験で、最後には脈拍が200にもなりそうだ。素晴らしいアルバムに相応しい素晴らしいエンディング!

Anette, Marco, Tuomas

Summa summarum、一度聴いただけで最高のアルバムかどうか述べるのは不可能だ。私の感触では、初めて“Once”を聴いたときの感じと似ている。私はこれを聴いたあとは心を落ち着かせないと駄目なくらいだし、今すぐにでももう一度聴いてみたい。そうすれば今聴いたものを理解できるかも知れないから。Anette のパフォーマンスは完璧で、彼女の華麗な歌声があればこそ、この作品は王冠を戴くに相応しいものとなる。 繊細な部分から爆発するようなものまで、このアルバムには多様な感情という豊かな財産がある。アルバム最終部で聴けたケルトの主題には驚かされた。アルバムに新たな彩りを添え、少なくとも私にとっては空気を突き動かすものだった。私はアイルランドのファンなのだ。

さて、Sonata Arctica の Henrik の言葉によると、曲について文章を書くという行為は、ニュースをピアノで読もうとするのに等しいと言う。 つまり音楽作品を文字にするということは馬鹿馬鹿しい行為だと言うことである。人はみんな曲を聴いてそれぞれの感じ方をするものなのだ。既に報じられているとおり、これにはフィンランドのアルバム史上最高の金額が掛けられている。聴き終えてはっきりと分かることは、その投資にはその価値があったということ。最終的な結果も完璧と言える。アルバムからは既に2曲がロサンゼルスの Antti Jokinen の元で制作されている。

Imperiumi.net